歌集・句集

小野昭太郎歌集『野叟詠懐』


 詩集と発刊」してきた著者が、入院をきっかけにはじめた短歌をまとめた。

石探る追良瀬春日麗らかに猿わらわらと散る(春)

早乙女の並ぶ田植えは遠くなり往きては来る機械の忙し(夏)

望外に冬の日晴れて暖かく妻の墓掃く忌日来れば(生活)

新聞は広告だけが肥え太り記事は次第に権力に寄る(世相)


四六判並製・135ページ
本体1200円+税
渡辺静子歌集『モノローグの木 その後』 寒流叢書37編  寒流社発行 
 

1999年に刊行された『モノローグの木』(寒流社)の続編。

 前著は、初めて歌をつくってから50年を経た区切りとして、社会人になってからの歌を自選。
今著は、その後、秋田市から、娘夫婦のいる北海道芦別市に引っ越してからの歌を収めた。

芦別市短歌連盟会長、「はしどい」編集・発行人、「寒流」同人ほか。


   *   *   *

日本語のひびきを幼と楽しみて公園に着くまでのしりとり(「移りきて」)

実直に生きてひっそりと逝きし子の遺骨を抱きて海越えて来ぬ(「悲哀の繭)

ささやかな歌誌なれど待つ人いれば汗拭いつつ原稿を読む(「供花の庭」)

新緑をゆらし通園バス走るさびしき峡の光のように(「緑の風」)



四六判上製・202ページ
佐々木鏡子歌集『飛燕の狩』 寒流叢書38編 寒流社発行 
 

  短歌を詠み始めたのは、60歳を過ぎた頃からで遅い出発である。教職にある私に替わって息子や娘を大切に育ててくれていた母が病で倒れたため、56歳で職を退いた。
 若い頃から短歌をたしなみ『おりおりに』の歌集を刊行した母は、病床にありながらも詠み続けていたので、それを口述筆記する日々が数年続いた。そんなひ たむきな母の姿に感銘を受けると共に、詠む楽しさを知らず知らずのうちに教えられたような気がする。感性や観察力が乏しく、抒情性のある歌、内面を深く見 つめる歌を詠みたいと思うのだが、まだまだ道遠しである。

 飛燕の狩(あきたの文藝 入選)

かさこそと蠢(うごめ)く気配に見上ぐれば巣よりのぞきぬ雛のくちばし
餌与へ翻(ひるがえ)りゆく親つばめ己が身けづりひたすらなりき
ましくらに青田をめざし滑空す飛燕の狩のみごとなるかな
水の面(も)に尾羽を打ちて幾たびもひるがへり飛ぶひかり曳きつつ
幾にちを見ぬまに育ちしつばくらごふつくりまろみて巣よりはみ出す
巣立ちゆきもぬけのからとなりし巣は子らと重なり愁ひただよふ
ふるさとを恋ふがに幼き燕らは巣をめぐり飛ぶ夕づく空を


四六判上製・252ページ